ジャン・マラス氏に捧ぐ。

幾多の博物学書を読み漁った挙句、高名なるわれらが友トリビュラ・ボノメ博士は、次のことを学ぶに至った。「白鳥の今際の歌はまことに美しい。」――事実(最近になってもまだ言っていたが)、ただこの音楽のみが、ひとたび耳にして以来、彼にとって人生の失望に耐える唯一の支えとなっていた。他の音楽は、ただ騒がしいだけの「ワグネル」な代物と思われた1

――いかにして彼はこの通人の快楽を手に入れたのか。――次のような次第である。

この実際的な老人は、自宅のある大層古い城塞都市の近郊で、ある日、古来放置されていた庭園の中、大きな木々の陰に、神聖なる古池――その暗い鏡の上を、12羽から15羽ほどの鳥たちが静かに滑っていた――を発見した。彼はそのほとりを綿密に調査し、そこかしこの距離を測定したが、とりわけ一羽の黒い白鳥には注意を怠らなかった。その鳥は寝ずの番を担っており、朝日に包まれるころになってようやく眠るのであった。

その黒い白鳥は一晩中目をくわっと見開いており、薔薇色の長いくちばしには滑やかな石をひとつ咥えていた。仲間に迫る危険の兆候をわずかでも察知すれば、彼は首をしならせ、唐突に水の中に、眠る仲間たちの白い輪の中に、目覚ましの石を投げ入れたであろう。――そしてこの合図を受けた一行は、同じく黒い白鳥に導かれ、深い闇へと続く並木道の暗がりを抜け、どこか遠くの草地か、灰色の彫像を映すどこぞの噴水池か、あるいは彼らの記憶がしかと留めるところのいずこやの逃避地へと飛び去ったろう。――ボノメは静かに彼らを長いこと見つめた――彼らに微笑みかけさえした。彼がまもなく、完璧な好事家として、その耳を満足させようと夢見ているのは、彼らの今際の歌によってではなかったか。

それゆえ時折――月が見えない秋の夜の午前零時――ボノメは寝も寝られず飛び起き、あの合奏を何度でも聞こうと、特別な服に着替えた。大柄で骨張ったこの博士が脚を突っ込むのは、金具付きの、並外れて大きなゴム長靴であった。そこから継ぎ目なしに、ゆったりとした防水フロックコートが続くが、このコートにもしかるべき毛皮の裏地がついている。続いて彼は、中世のとある甲冑に由来する紋章で飾られた鋼の籠手(古物商でたった38ソルで――どうかしている!――喜んで買った代物)に両手を滑り込ませた。以上を終えると、彼は当世風の大きな帽子を戴冠し、灯火を吹き消し、外に出、家の鍵をポケットに入れ、ブルジョワ風に、打ち捨てられた庭園のはずれへと向かうのであった。

まもなく彼は、暗い小道を通り、お気に入りの歌い手たちの隠れ家の方へ――池の方へと踏み入っていった。その池はさほど深くなく、また至るところを既に測量してあり、腰までしか水に浸からない。そして彼は、岸にほど近い葉叢の丸天井の下、枯れ枝を探りつつ、忍び足で歩を進めた。

岸にたどり着くと、彼はゆっくりと、とてもゆっくりと――物音ひとつ立てず!――長靴を一歩また一歩と、恐る恐る歩ませて――水をかき分け、前代未聞の慎重さで進んでいった。まさに前代未聞、息もほとんどしていなかったほどである。これぞ、待ちわびた小歌曲カヴァティーナが目前に迫ったときの音楽狂の姿である。それゆえ、愛しき巨匠たちからおのれを隔てる20歩を踏破するのに、彼は概して2時間から2時間半を費やした。それほどまでに彼は、黒い見張りの鋭敏な警戒心に不安を与えるのを危惧していたのである。

星なき夜空を吹く微風が、池を囲む暗闇に潜む高い枝々を揺らし、うめき声を発させた。――しかしボノメは、この不思議なざわめきに気を取られることなく、少しずつではあるが常に着々と歩を進めていったため、午前3時ごろには、身を隠したまま、自分がそこにいることのいかなる手掛かりも与えることなく、黒い白鳥まであと半歩のところまでたどり着いた。

そして好人物たる博士は、闇に隠れて微笑みつつ、見張りの手前の、夜に紛れた水面を、中世の人差し指の先で、そっと、ごく優しく、触れるか触れないかといった程度にひっかいた!……このようにそっとひっかくと、黒い白鳥は、驚きはするものの、この漠然とした危惧を、石を投げるに足るほどのものとは判断できない。白鳥は耳を澄ます。やがてその本能は、漠然とではあるが危険の観念を確信し、その心臓は、おお! 哀れなるその心臓は、馬鹿正直にも激しく脈打ちはじめる。――その鼓動はボノメを歓喜で満たした。

すると美しい白鳥たちは、深い眠りの最中に生じたこの物音に、一羽また一羽と不安に駆られ、青白い銀の翼からうねうねと頭を出し、――そしてボノメの影の重みを感じ、おのれを苛む死の脅威を、混乱した頭で、漠然とながら意識し、次第に恐怖に陥っていった。ところが彼らは、この上なく洗練されているがゆえに、見張り番同様、静かに苦しんだ――彼らは逃げられずにいた。石が投げられていなかったために! この白き亡命者たちは皆、未だ鳴らざる断末魔に心臓を高鳴らせはじめた。――しかし優秀な博士の歓喜に満ちた耳には、彼らの断末魔がはっきりと聞こえた。自分ひとりがそばに潜んでいることが白鳥たちに及ぼす精神的効果が、彼にはよく分かっていた。自分が身動きせずにそこにいることが白鳥たちにもたらす恐怖の念を、比類なき欲望を抱きつつ、彼は大いに楽しんだ。

――芸術家を発奮させるのは何と素晴らしいことだろう! と彼は小声で独り言ちた。

天国とも替えがたきこの恍惚は、45分ほど続いた。突如、明けの明星の光が木立の枝々の合間から差し、唐突にボノメと、黒い池と、眼に夢を湛えた白鳥たちを照らし出した! 見張りはこの光景を見て恐怖のあまり取り乱し、石を投げた……――時既に遅し!……ボノメは、これまで見せていたシロップのように甘い微笑みの仮面が外れたかのように、恐ろしい大声を上げ、爪を振りかざし、両手を広げ、聖なる鳥たちの陣営の中へと跳びかかった!――この現代の騎士は、鋼鉄の指を素早く握った。すると2、3羽の歌い手の、白雪がごとき純白の首が、他の詩人鳥が輝かしく飛び去るその前に、指に圧され、打ち砕かれた。

そのとき、息絶えんとする白鳥の魂が、好人物たる博士のことも忘れ、不滅の希望の、解放の、愛の歌となり、未知の〈空〉へと立ち昇った。

理知的な博士は、この出来事の感傷性に微笑んだ。謹厳な通人として、彼はたったひとつのものしか――〈音色〉だけしか味わいはしなかった。――彼は、音楽でも聴くかのように、この象徴的な声の音色の奇妙な甘美さしか解さなかった。その声は〈死〉を旋律として歌い上げていたというのに。

ボノメは、目を閉じ、豊かに響く振動を心に吸い込んだ。そしてよろめきつつ、発作でも起こしたかのように岸辺に倒れ込み、草の上で横になり、暖かい防水仕様の服に包まれたまま、仰向けになった。

そのまま、この現代の〈芸術庇護者〉は、逸楽的な麻痺に襲われ、自身の奥底で、お気に入りの歌い手たちが歌った心地よい歌の思い出を――彼が時代遅れとみなしている崇高さに穢されたかたちではあったものの――繰り返し味わった。

そして、昏睡へと誘う恍惚感を徐々に取り込みつつ、彼はこのように、ブルジョワ風に、えも言われぬ印象を、日が昇るまで反芻し続けたのであった。


底本:Villiers de l'Isle-Adam, Le Tueur de cygnes, dans Tribulat Bonhomet, P.-V. Stock, 1908, pp. 3-11.


  1. 当時ワーグナーの批判者らは、その音楽を騒音に喩えた。言うまでもなくヴィリエは信奉者の側である。 ↩︎