【翻訳】ヴィリエ・ド・リラダン「二人の卜占官」
特に天才を排す!
(現代の標語)
フランスの若人よ、思想家と作家の魂よ、将来の〈芸術〉の巨匠よ、額に天啓を受け、新たなる信念に身を委ね、例えば「後世に残るよう耐え忍べ」などという、差し出がましくも我が贈る格言を、必要とあらば引き受ける覚悟のある、来るべき創造者よ、汝、またもや敗れ、首都のどこかの寒い部屋で、勉強用ランプに照らされつつ、「おお権威ある雑誌よ、汝が頁を幾千かばかり我に与えたまえ、さすれば我は書き記さん、前代未聞の美を湛えたる思索の数々を!」などと小声で独り言ちたことのある者よ、気違いの群衆が求めることばかりを書き連ねるのでなく、おのが使命として言わねばならぬことに従い誌上で語ることがいつの日か許されれば、という希望を汝が抱くのは至極当然である――貧しく卑しき汝はこう思っているのであろう、燦然と輝くおのが著作が〈人類〉の中へと投げ入れられさえすれば、せめて日々のパンや灯火の油を贖うだけの金は得られるのではないか、と1。
よろしい、では奇妙にして一見逆説的な――(しかしながらあらゆる写実主義のなかでも最も抗弁しがたい)――この対話を聞きたまえ。これは、最近とある新聞の某編集長と、ジャーナリストになりたい一心で某日正体を偽った我らが友との間で交わされた対話である。
この場面は、私の精神において常に繰り広げられているような気がする。――またこの種の他の場面も、つまるところ――声に出して演じられるものであろうと、暗黙裡に表現されるものであろうと――その(永遠なる!)場面の通貨[=具体的代替物]にすぎない以上――私は、おお自らその新たなる例とならんこと必定なる汝よ、直説法現在形で語らねばならないように思われる。
では事務所に入ろう。室内はほとんどいつも非常に美しい緑色で、そこには編集長――善良なるブルジョワ市民らを「定期購読案件」と見ているあの連中のひとり――が机の前に座っている。肘掛けに片肘をつき、手に顎を乗せ、思索に耽っているかのような様子で、もう片方の手で古きゆかしき象牙のペーパーナイフを無造作に弄んでいる。
そこに下働きが現れる。彼は一枚の名刺をこの思想家に手渡す。
思想家はそれを手に取り、ぼんやりと一瞥すると、不安げな眉を持ち上げ目を丸くし、微かに身震いすると、すぐに落ち着きを取り戻しこう述べる。
――はて「無名」氏とな、と彼は呟く――ふん! 誰だか知らんがこのぺてん師め、吾輩のところまで通してもらおうとハッタリかましやがって。今日日誰もが有名人さ。お見通しだわい。――で、そいつはどんな奴かね。
――若い男でございます。
――ほう! 入れてやりたまえ。
すぐに我らが若き友が姿を見せる。
編集長は立ち上がり、この上なく上品ぶった調子でこう言う。
――今ワタクシがお話しさせていただく栄誉にあずかっております貴方様は、本当に無名の御方なのでございましょうな、と彼は呟く。
――この肩書きがなければ、あなたにお目にかかろうとは思いませんでした、と自称三文文士は答える。
――どうぞ、お座りあそばせくださいませ。
――ちょっとした時事評論を書きましてね、お目にかけようとお持ちしたんです。――もちろん少々軽率さが残る代物ですが……
――言うまでもないことですよ。本題に入りましょう。一行いくらをお望みですかな?
――では、3フランから3.5フランでいかがでしょうか、と重々しい調子でこの新参者は答える。
(編集長、身震いする。)
――恐れ入りますが、「モンテパン2」でも「ユゴー」でも、いや「デュ・テライユ3」でさえ、そんな額は無理でしょうな! と彼は言い返す。
青年は立ち上がり、冷たい口調でこう言う。
――どうやら編集長殿は僕がカンペキに無名であるということをお忘れのようですね!
沈黙。
――お座りください。ビジネスというのはそんなふうにやるものではありません。確かに、近頃では無名の人は珍鳥のごときものだということは、こちらとしても否定しません。しかしながら……
――もっといえばですね――文筆家志望がくだけた口調で遮る――僕には、おお! 才能の欠片もないのです。才能がさっぱり欠けているのです……ものの見事に! 世間一般の言い方でいえば「白痴」です。才能があるとすれば、イングランド式とアイルランド式の拳闘術の奥義を体得していることだけです4。結構手堅く勝てますよ。――〈文学〉は、はっきり言って、僕にとって7つの印が押された封書5同然です。
――なんですと、と編集長は喜びに震えながら叫ぶ――あなたは自分に文学の才能がないとおっしゃるのですな、うぬぼれた若造め!
――見せろというなら今すぐお見せしますよ、僕が文学においてどれだけ無能なのかを。
――ああ、そんなはずはない!――嘘をついているのでしょう!……と編集長は言いよどむ。明らかに、最も古い望みのなかでもとりわけ秘密にしていたものに心動かされている。
――僕は、とその余所者は優しい微笑みを浮かべつつ言葉を継ぐ、いわゆる冴えないうぬぼれ屋の出来損ないです。超一流の思想の愚劣さと文体の陳腐さを兼ね揃えた、典型的な凡筆家です。
――あなたが? まさか!――ああ! 本当にそうだと良いのですが!
――誓って本当です……
――私に誓っても無駄ですぞ! と編集長は続ける、目を潤ませ、憂鬱な微笑みを浮かべて。
そして、情け深い目で青年を見る。
――そうさ、何も疑わない、これぞまさに〈若さ〉というものだ! 呆れた情熱! 思い違いさ! 第一歩を踏み出しただけで、はや到達と勘違いするんだから……!――何の才能もないとおっしゃいましたな。しかし本当にあなたはお分かりでしょうか、今の時代、いかなる才能をも持たない人は、最も傑出した者、刮目すべき者のことですぞ……大抵、50年あまりの闘争と労苦、恥辱、それに悲惨を耐え抜いて、初めてその境地に達するのですが、それでもなお成り上がりの域を出ません。おお青春! 人生の春! プリマヴェーラ・デッラ・ヴィータ! だが私は――今あなたと話しているこの私は――もう20年も才能のない者を探し続けているのです!……お分かりいただけますかな……ひとりたりとも見つかりやしませんでしたよ。白い黒歌鳥を捕まえようと、50万フラン以上費やしました。私はこの狂気の企てに「ぞっこん」でした! 他にどうしろというのです! 私はまだ若かったし、愚直でした。大変な散財をしてしまいました。――今日日誰もが才能を持っています。皆と同様、あなたもです。自分を買いかぶらないことですな。信じなさい、そんなことしたって無駄です。そんなのは時代遅れの狡いやり方です。今では通用しません。冗談はよしましょうよ。
――そんなに疑わなくても……才能があれば、僕はここには来なかったでしょうに。
――じゃあどこに行っただろうというのですか。
――医者に行ったでしょうね。信じてくださいよ。
――実をいうと、と編集長は、そのしたたかな微笑みを絶やすことなく、今度は穏やかな調子で甘くささやく。実をいうと、うちの雑用係は――ほら、あなたの名刺を私に届けてくれたあの愛想のよい奴ですよ(実はあいつ、文学部を出ていましてね、しかも学士号を取ったときには表彰されたのです――〈学問〉はなんと素晴らしいのでしょう! だってそうでしょう! 今や学問があれば何にだってなれますからな!)――あいつは、素晴らしい戯曲を3、4本書いた劇作家にほかなりません。しかもその作品というのが、言い方が悪いですが「文学的」な代物でして、他の何百もの作品を差し置いて、フランス学士院が主催する幾多のコンクールで賞を獲得したのです。他の作品は、当然あいつの作品より好んで上演されていたというのにですよ。それでですね、あの不幸者は何の治療も受けようとはしませんでした! ですから、あいつの親友どもが言うところによると、あいつは実際のところ、何もなしえない馬鹿にすぎないのです。その親友どもは、涙に震える声で、あいつのことを飲んだくれだとか、ボヘミアンだとか、女衒だとか、ペテン師だとか、落伍者だとか言いました。そして空を見上げ、こう言い添えました。「気の毒でならない!」と。――ああ、パリでは――朝名誉を失しても夕方には復権することを誰もが認められているこのパリでは――そんなことでは大したことにならないと、私はよく知っています。――実際、むしろ良い宣伝になるかもしれませんよ。――だが不器用なほどに呑気なあいつは、それで一儲けする術を知らなかった。あいつが非難されるのももっともですよ。つまり私が、あいつに一時的に救済院暮らしを免れさせてやっているのは、単なる人情からです。あなたの話に戻りましょう。――無名で才能の欠片もない、とのことでしたな。――いいえ、私は信じません。もし本当なら、あなたも私も大儲けです。一行あたり6フランだって出すでしょうな!――さあ、ここだけの話、この記事がてんで駄目だということを、誰が保証してくれるというのですか。
――お読みください! と若い誘惑者は自慢げにきっぱりと言ってのける。
――ついこの間終わった〈思春期〉が、かすかに漏れ出ているようにお見受けしますぞ!――と編集長は笑いながら答える。弊社は、決して公開すまいと決めたものしか読みません。十分に判読困難な原稿しか印刷にかけません。しかるに、ほら、あなたの原稿は、鼻眼鏡越しに見るかぎり、何やら達筆な文字で穢されているようですな――早くも悪い兆候です。文章に気を配っているのではないかと嫌疑をかけられてしまいますぞ。あらゆるジャーナリスト、この偉大な称号に真にふさわしいジャーナリストは、むしろ頭に思い浮かぶことを、何でもかんでも、筆の赴くがままに書くほかありません。――わけても、自分の書いたものを読み返すなど、愚の骨頂です! 行き当たりばったりに書きたまえ! 一時の気分と新聞の論調だけに由来する信念を携えて、そしてただひたむきに歩むのです!……さもなくば、優れた日刊紙は決して現れないでしょう! あなたねえ、地方行きの汽車が我々の新聞を待っているというのに、自分が書いたことについて思いを巡らして時間を無駄にできるほど、我々は暇ではありません。もう明らかでしょう! 大事なのは、読者が、自分は何かしらのものを読んでいると思えることです。お分かりいただけますかな。読者にとって、結局それ以外のことはどうでもよいのです!
――ご安心ください。これを書いたのは筆耕でして……
――清書なんぞさせたのですか!――なんと! ご冗談でしょう。
――僕が書いた原稿は、判読困難であったばかりでなく、綴りも語法も山ほど間違っていましたし……だからやはり……初めての記事ですし……そうした方がよいのかなと……
――それでしたら、むしろなおさらそのまま持ってくるべきでしたな!――するとやはり、金剛石がおのれの値打ちを知ることは遂にないということでしょうかね――綴りや語法の間違いのことですよ!……ご存知ないのですか、植字工に頼んで間違いをそのままにしておくこともできるでしょうに――間違いを取り除くことなど、大方、記事から塩を抜くようなことにしかなりません。むしろ真の通人が好んでやまないのは、まさにあの天然の、コクのある、最初の衝動に忠実な記事にほかなりません! ほら、都会人は貝殻をありがたがりますでしょう! 貝殻を目にすると、都会人は満ち足りた気分になります。地方で見つけたときなど、まさにそうです。あなたは最低の間違いを犯してしまいましたな。いやはや!――それで……この時評を誰か専門家に見せたりでもしましたかね。
――実を申しますと、編集長殿、自信が持てなかったのです。だって僕には、才能がありませんから。ありがたいことに、ですけど……
――ふん! そうであってほしいものですがね! と編集長は、そばに置いてあった拳銃をちらりと一瞥したのち、言葉を遮る。
――この大変な苦境を乗り越えるために、大衆の知性の適当な平均を代表するに違いない人物を探した結果、私が目をつけたのはうちの――(ああもう言ってしまえ!)――うちの「門番」でした。――そいつはオーヴェルニュ地方から来た老いぼれの使い走りで、手すりにつかまり階段をえっちらおっちら上り下りしているうちに髪も白くなり、夜中に跳び起きる日々に疲れ果て、手紙の封筒ばかり読んでいたために、まさに鷹のような血走った目つきになってしまいました。
――そうですとも! とそのとき編集長は、非常に用心深くなり、ぶつぶつと言う――実際、この選択は実践的かつ妥当であるのみならず、実に巧妙なものでした。それというのも公衆は、よくお聞きなされ、〈常軌を逸したもの〉に熱狂するものですからな! しかし公衆は、自分たちが熱狂するところのこの〈常軌を逸したもの〉が、(こんな言い方はしたくないのですが)文学において何であるのかよく分かっておりませんから、したがって私が見るに、門番が下す評価は、良きジャーナリズムにおいては、ダンテが下す評価以上に適切であるように思われるわけです。――さて……綬を授かった6この男は、いったいどのような判決を下したのでしょうか。
――それはもう大興奮! 大喜び! 有頂天でした! 私の読み上げ方に惑わされたのかもしれないなどと言い、もう一度自分で読みたいからと、私の手から原稿を奪いやがったほどです。結びの一句を考えてくれたのは彼にほかなりません。
――なんと浅ましい! 私のところに直接持ってくればよいものを! ほら、どこぞの思想家が言っていたでしょう――いや言っていたはずです――ジャーナリストの理想とは、第一に〈報道人〉、次いで眉をしかめた〈落伍者〉(髪が巻き毛になるように、自然と眉をしかめるのです)。彼らは礼儀もわきまえずにでたらめに他人を罵倒し、――それに対して肩をすくめない世間知らずどもとやり合うのです――公衆の卑劣さを利用して、おのれの怒りっぽい凡庸さを聖なるものとして崇めさせようとするのです。このような歌手と踊り子の共演こそ、新聞の名を名乗るに少しでも値する新聞であれば、あらゆる新聞が宿している生命です。この2つの〈欄〉に載る「記事」を除けば、他の記事はすべて、行き当たりばったりに、真珠のように数珠繋ぎにした「結びの句」だけで作っておけばよいのです。〈公衆〉は、ものを考えたり思い巡らしたりするために新聞を読むのではありませんぞ!――ものを食うように新聞を読むのです。――さあ、お持ちいただいた原稿に目を通すとしましょう。――さてさて、あなたの真価は(どこぞのラテン詩人がまさにそのようなことを言っておりましたな7)年月の数を待つや待たざるや……
――こちらが原稿です! と、満面の笑みを浮かべた文筆家は、若者らしいうぬぼれた様子で自作を差し出しながら言う。
3分後、編集長は身震いし、そして未綴じの原稿を、軽蔑を込めて机に投げ捨てる。
――ほらみろ! と彼は深いため息をつきつつ嘆く。思ったとおり! またもやがっかりだ。もう何度失望したことやら。
――なんですと、と若い主人公は怯えたような声で呟く。
――悲しいかな! 高貴なる我が友よ、なんとまあ才気に満ちているではありませんか、この原稿は! こんなことを言ってすみませんね! 一行3スーですな――それさえ、あなたが無名の人だからつけてやれる値段です。もし私がこれを掲載すれば、8日のうちに稿料はタダになるでしょう。15日以内には、むしろあなたが私に金を払うことになるでしょうね――筆名をお使いになるなら別ですが。いやいや、本当ですって。いい加減冗談はよしましょうよ! あなたは真面目ではありませんし、お見受けしたところ、真面目になるのは非常に困難でしょうな。なにしろあなたには、不幸なことに、おのれを(こんな言い方で恐縮ですが)作家たらしめるあの才能上の特質がございますからな……あなたは、良心も思想も持ち合わせない、頭がすっからかんの炭疽病ではありません。私の信条に揺さぶりをかけ、好意と金を引き出し、見積もりをつり上げようと、先ほどあなたは自分がそのような人間だと嘘をついていらっしゃいましたが、本当はそのような人ではないのです。
――違います!……と、自称日刊記者志望は愕然とした表情で口ごもる。――何かの間違いに違いありません……誤解です。原稿を……もっと丁寧にお読みいただければ……
――いやいやその原稿、24時間以内に発行部数を5000部減らしてしまうほど〈文学〉臭むんむんですぞ! と編集長は大声で言う。まったく、文体の質だけでも才能をなすのですよ! ある新聞にいわゆる観念なるものの叙述を書ける三流作家は100万人います……ああ! ブラック・アポン・ホワイト! たったひとりの作家が、この観念を一冊の書物に著そうと、今度は自分の番と心得て、自分の流儀でそれを書き表そうものなら、どうなることでしょう。他の全員は忘れ去られるのです、ひとり残らず! さながら砂上に吹く一陣の風ですな。――なるほど、訳の分からない話には違いありません。だがどうしろというのです。これが実態なのですから。――ですから、もしあなたが作家なのでしたら、あなたは生まれながらにしてあらゆる新聞の敵なのです。
もしあなたがお持ちなのがせめて才能だけでしたら、いつだって多少は売れたに違いありません、才能だけであれば。しかし最悪なのは、読者を逃さないよう、おのれの知性を隠そうと努めていることを、文章のどこかから感じ取れるように書いておられることです。いやはや、自分を辱める者をひとは嫌うのですよ! あなたが紡ぐ自然な文体が呈する、目を見張るばかりの力強さには、まだまだそれを紡ぐ努力そのものが透けて見えます。いかなる外科の技術をもってしても、これほど本質に根差し、これほど致命的な欠陥を治すことなどできやしません!――あなたの原稿を載せるとでも? それなら実業年鑑を転載した方がましですな! その方がずっと有用です。端的にいえば、この原稿に表れたあなたの姿は、まるである女の持参金を狙っていたところ、がに股の男が好みだと知り、彼女の気を引こうと、わざとびっこを引いてみせる男のようです。――あるいは、先生や学友から好評と尊敬を得ようと髪を白く染める、奇矯な中学生ですかな。――あなたねえ、数ページざっと読んだだけでも、自分が誰を相手にしているのか、私にはとてもよく分かりましたよ。――今日日嘘を真に受ける人なんていやしません! 公衆は、動物と同じくらい鋭い本能と嗅覚を備えています。彼らは同類の匂いを嗅ぎ分け、決して誤りません。あなたの正体も見破られてしまうでしょう。公衆は気がつきますぞ、あなたが、自分の書いたものが秘める晦渋な本当の意味や価値をよく知っているがために、公衆が下す評価を、それが称賛であれ非難であれ、半長靴についた土埃程度にしか思っていないことに、あるいは、あなたについて公衆が語る、取るに足らない能天気な発言が、あなたにとっては七面鳥の鳴き声か、もしくは鍵穴に吹き込む風の音のようなものにすぎないことに。あなたがこの原稿で――どういうわけかは知りませんが、きっと金に困ってのことでしょう――公衆の「見解」と同じ水準におのれを低めようと試みたあけすけな努力は、彼らに対するひどい侮辱です。あなたが見せた上っ面の謙遜のぎこちなさは、公衆の無気力な増長に対する、殺意に満ちたためらいの表れです。あなたがひどい剣幕で帽子を差し出すその行為は、公衆に施しを乞うように見えながら、その実彼らの鼻っ柱をへし折ろうとしているのです。そんなことは許されません。それはむしろ読者が書き手に対して行うことです。才能ある人々は、おのが著作においてのみ、公衆に許容される範囲で馴れ馴れしく振る舞うことができます。ときに読者の髪の毛を引っ掴み、穏やかにして崇高なる拳で彼らの頭蓋骨を震撼させることもありますが、それはうつむく読者に顔を上げさせるためです!――しかし新聞においてはですね、そんなやり方は、少なくとも場違いです。そんなことはその新聞の未来を危うくすると、取締役会は思うでしょう。実際、そのような記事の不都合はそこにあります。
ブルジョワたちは、商売に煩わされ沸騰した脳味噌を使って、そのような記事に目を通します。そして目を見開き、小さな声で、あなたがたを「詩人」と呼び、腹のうちでほくそ笑み、定期購読をやめるのです――あなたには大変な才能がある! と大声で言いながら。――そうやってブルジョワたちは、一方であなたがたの書いたものに自分たちが傷つかなかったことを示し、他方で、同じブルジョワたちがあなたがたを見捨てるよう仕向けます。このブルジョワたちは、同士の意向を察し、彼に調子を合わせ、かぐわしい賛美の声をあなたに纏わせ、そして、これで良しと安心してか、あるいは本能に従ってか分かりませんが、金輪際あなたの書いたものは読みません。なぜなら彼らは、あなたがたのうちに魂を嗅ぎつけてしまったのですから。魂こそ、彼らが世界で一番嫌いなものです。――しかも、金を出すのは私ですぞ!
(ここで編集長は、話し相手を鈍い目で見つめつつ、腕を組む。)
――ああそうか! もしやあなたは〈公衆〉を馬鹿だとお思いですね。呆れたものです。そうに違いありません!――公衆にだって知性はありますぞ……あなたの知性とは種類が異なりますが、ただそれだけのことです。
――しかしですね、と本性を現した物書きは、微笑みながら答える、お話を伺うかぎりでは、あなたと僕で、公衆を心底侮辱しているのがどちらかといえば……果たして僕の方でしょうか?
――無論おっしゃるとおりです! ただし私は、実利に資する、金になる仕方で公衆を愚弄しているのです。実際ブルジョワどもは(奴らは万物の敵であり、おのれ自身の敵でさえあるのですが)、おのれの卑劣さに溺れるために、いつも個人的に私に金を払ってくれます。ただし条件がひとつ! 私が奴らの仲間に向かって話していると、奴らに信じさせなければなりません。こんな仕事において、文体が何の役に立ちましょう。今日、真面目な文筆家が採用すべき唯一の標語は次のようなものです。汝凡庸なれ! 私もこれをモットーとしました。おかげで私も随分と有名になりました。――ああ! フランスのブルジョワジーに関していえば、もうユスタッシュ・ド・サン=ピエール8の時代ではないのですからね!――我々も進歩しました。人類の〈精神〉は前へ前へと進むのです! 今日では、第三身分は皆、当然の欲求として、もはや胃腸に溜まったガスや皮膚のダニ、お腹のゴロゴロを、ただ安らかに、思うがままに排出したいとしか思っておりません。また彼らは、金の面でも人口の面でも、飼い主に反旗を翻した雄牛のごとき力を有しておりますから、我々も彼らに帰化するのが一番です。――ところがあなたは、彫刻の施された金のやかんに入った苦いアロエ汁をブルジョワどもにたらふく飲ませようとの心づもりで、ここにいらっしゃった。奴らが渋面で反抗するのも当然です。知性などという下剤を無理やり飲まされるのは御免でしょうからな! そうなればブルジョワどもはすぐにでも私のところにやってくるでしょう。習慣というこの第二の天性から鑑みるに、結局奴らが好んで飲むのは、私が出すような、古くて汚いゴブレットに注がれた混ぜ物入りの安物葡萄酒なのです。いやいや詩人さん! 今日日天才なんて流行りませんよ!――国王というのは実に嫌な存在ではありますが、それでもシェイクスピアやモリエール、ワーグナーやユゴーらを良いものとみなし、彼らに敬意を払っています。ところが共和国は、アイスキュロスを追放し、ダンテを放逐し、アンドレ・シェニエを断頭台に掛けるのです。共和国には、才能を持つことのほかになすべきことが山ほどあります! だってそうでしょう、我々はいくつもの事業を抱えていますからね。もっともこのことは、天才に対し敬意だのといった感情を持たないことの理由にはなりませんがね。結論を述べましょう。お若いの、こんなことを申し上げるのは悲しくてなりませんが、あなたは大いに、甚だしく、才能に冒されています。粗忽にも率直なことを口にしてしまい申し訳ございません。あなたを傷つけようとしているわけではないのです。あなたくらいの年頃には、ある種の真実は耳に障るものです。分かっておりますとも。しかしながら……気を落とさないでください! この記事であなたが犯した行為は、非難されてしかるべきものですが、そのためにあなたがどれほど途方もない努力をなさったのか、私には分かりますし、良い努力をなさったとさえ思います。しかし何をなさりたいのですか! こんな努力は実を結びません。根っからの悪党になることなどできやしないのですから! 天賦の才が欠かせません! 必要なのは……洗礼の聖油です! 生まれたときから決まっているのです。卑しむべき記事といえど、吐き気を催させてはなりません。むしろ誠実さと、そしてとりわけ気取りのなさを感じさせなければなりません。――さもなくば、あなたは嫌われてしまうでしょう。本心が見透かされてしまうのです。諦めるのが一番ですな。しかし――もしあなたに才能がないのでしたら(そうであってほしいものです、そうとは思えませんが)――あなたの場合、希望が全くないというわけではありません。勉強するのを止めれば、もしかするとうまくいくかもしれませんね。例えば自ら意図して剽窃家になれば、論争を巻き起こし、売れっ子になることでしょう。そのときはまた私に会いに来てください。そうでもならないかぎり、あなたと一緒に仕事をするのは無理でしょうな。――そうそう、私、かくいう私にも、大っぴらには言えませんが、実はあなたと同様、才能があるのですよ。ですから、自分で記事書くことはありません。書けば3日後には乞食になってしまうでしょう。それに、何かしらの才能がありそうだなどという嫌疑をかけられて将来が危うくなることのないよう、私は本を一冊たりとも著さず、文章を一行たりとも印刷に出さないようにしていますが、これには自分なりの理由があります!……私は、おのれの背後にただ虚無だけを残したいのです。
――なんですって! 10行たりとも残したくないと?……と物書きは驚いた様子で遮る。
――そうです。何も。――私は大臣になりたいのです! と編集長は、断固とした口調で答える。
――ああ! それでしたら話は別ですね。
――逆説だと言われようと構いません! ところで、私があなたにお話ししていることは、実際的な観点からいえば疑いようがありません。そうですよね?……ですから、例えば、もしこのフランスで美術大臣が普通選挙で選ばれることになったときには、あなたは、肩をすくめて、真っ先に私に投票なさるでしょうよ。いやいや、本当ですって! いやはや! 冗談はよしましょう。私は決して冗談など申しません。さて、ともかく原稿は私にお預けください。
沈黙。
――恐れ入りますが、と無名の人は、机に置いてあった自分の労作を引っ掴み、こう答える。あなたのその考えは間違っています。政治における僕の意見は、ジャーナリズムにおけるそれとは同じではありません。件の大臣職に就く人間は、公明正大で、能力があり、知識がある、類稀なる高潔な精神の持ち主でなければ、僕は納得しません。あなたが主宰なさっている新聞以外に目を向ければ、フランスには、今の世の中にはびこる金銭の誘惑をものともしない誠実さを備えたジャーナリストたちがいます。文体は清澄な音を奏で、明るく輝くような言葉を駆使し、大衆の軽薄な判断を絶えず矯正する有用な批評を書く、そんなジャーナリストたちがいるのです。はっきり申し上げましょう。あなたがおっしゃたようなことに仮になったとしても、僕はむしろ、そのようなジャーナリストに投票します。
――頭に血が上っていらっしゃるようですな、お若いの。誠実さなんぞ今の時代流行りませんぞ!
――愚かごとだって流行ってはいませんよ、と物書きは微笑みを浮かべながら言い返す。
――ほう! 私くらいの年になって思い返したら赤面しそうな台詞ですな!
――あなたのお年を思い出させてくださりありがとうございます。お話を聞いていると、まるであなたが……もっとお若いような気がいたしますので。
――ほほう……いや、――あなたは粗探しのようなことばかりおっしゃいますな。
(ここで無名の人は立ち上がる。)
――小さな粗を探すことで、時として大きな粗が見つかるものです。編集長殿がご自分で証明なさったことではありませんか――と彼はうわの空で応じる。
――なんですと……生意気な言葉が聞けて嬉しいですぞ。しかしどうして急に辛辣になられたのですか。
(ここで若い訪問者は、拳闘士の目で向かいの男をにらむ。そのまなざしの冷たさに、肘掛け椅子にくつろぐ男に寒気が走る。)
――良いでしょう、率直にお話しします、と若い訪問者は答える。――なんということです! 僕が持ってきた記事は、あなたが毎日発行していらっしゃるどんな記事よりも百倍愚劣な代物です。膨れ上がったうぬぼれと、静かな反世間的態度、そして仰々しい無能さがにじみ出ている、冗長極まる時評――この分野の理想そのものです! まさに逸品と言ってもよいでしょう! それなのにあなたは、掲載の可否を言うのではなく、代わりに僕に罵詈雑言を浴びせなさる! 僕をとことん笑いものにするような呼称ばかり、僕に纏わせなさる! いきなり僕のことを物書きだの作家だの思想家だの何だのと呼びましたね。ああそうだ……こちらからは一切挑発などしなかったのに……(ここで我らが友は、まるで誰かに聞かれるのを恐れているかのように辺りを見回し、声をひそめる)……僕のことを「天才」などと呼ぶ手前でしたね! 否定しても無駄ですよ。お見通しでしたから。――自分に対して何も悪いことをしていない人を、そんなふうに天才呼ばわりするものではありませんよ。あなたは軽率なことをしたとは思っていないでしょう。むしろあれは、意地の悪い計略です。そんなことを言えば、無知な人はあらゆる食い扶持を奪われ、皆から搾取され嘲笑される運命だということは、あなたならよくよくご存知のはずです。拙稿の掲載を拒否なさるのは自由です。しかしその記事が才能にまみれているなどと言い、記事をけなすのはいけません。それならいったいどこへ記事を持っていけというのですか! そう、正直にいえば、そういう汚いやり口が胸糞悪いんだ! それと、あらかじめ言っておきますがね、もし僕についてあんな毒々しい誹謗中傷を言いふらしてみろ、――僕は召使いどもの舞踏会に紛れて生きているようなものですが、ひとを褒めそやかす奴らの半笑いや、頑張れとでも言うかのような奴らの目くばせを受けながら、飢えと悲惨と恥辱のために命を落とすなどというのは御免ですからね――あなたを決闘場に連れていくことだってできますよ。噓ではありません。あるいは謝罪を強いることだってできます。――もうおしゃべりは終わりにしましょう。今申し上げたことは、僕たち二人の間に生まれつつある友情の兆しを、不完全にしか表していないように思われますので、不躾ながら英国式に、挨拶抜きにおいとまいたします。最後に(無料で、ご参考までに)ひとつ言っておきましょう。僕は長らく、籠手の打ち合いには決してならないようなフェンシングの技術を研究してきました。ですから、僕を相手にしかるべき勇気を証し立てるのは一筋縄ではいきませんよ。――では失敬。
そして、帽子をかぶり、煙草に火をつけると、物書きは悠然と立ち去る。
さてひとりになると、
――怒ってみようか、と編集長は小さな声で自問する。なあに! 哲学者然としていようではないか。ソクラテスは、ポティダイアの戦いで勲章を授かったというのに、勲章への軽蔑ゆえに、それを若きアルキビアデスに譲ったという。このギリシャの賢人に倣うべきさ。それに、あの若者はなかなか面白い。奴が口にするたわいのない辛辣な言葉も、吾輩は嫌いではない。かつては吾輩もああだった。
(ここで我らが友は懐中時計を取り出す。)
――もう5時か!……――さあ、冗談は終わりにしよう。今晩の夕飯は何にしようか……カレイにしようか……そうしよう!――汽水域で獲れたので良いかな……駄目だ!――海水域で獲れたのが良いかな……そっちの方が良いな。――では……アントルメはどうしようか……
そう独り言つと、象牙のペーパーナイフを再び手に取り、政治紙・文芸紙・交易紙・選挙紙・工業紙・金融紙、および観劇紙の編集長は、またもや豊穣にして晦渋なる瞑想へと浸りゆく。こうなればもはや、彼の瞑想の由々しき対象が何であるのかを窺い知ることはできまい。それというのも、モサラベ9の古い諺が、まことに優れた判断力をもって指摘したとおり、「灯台下暗し」であるから。
底本:Villiers de l'Isle-Adam, Deux augures, dans Contes cruels, Paris, Calmann Lévy, 6e éd., 1893, pp. 34-51.
本篇の題名は、キケロ『占いについて』により伝わるカトーの名句「二人の卜占官顔を見合わせば笑いを禁じえず」に由来する。卜占官は占いがでたらめであることを知っているため、同じ卜占官と顔を見合わせると、背徳心から、相手に共犯の笑みを送らずにはいられないということである。 ↩︎
グザヴィエ・ド・モンテパン(1823-1902):大衆作家。 ↩︎
ピエール・アレクシス・ド・ポンソン・デュ・テライユ(1829-1871):同じく大衆作家。 ↩︎
作者ヴィリエ自身も拳闘術を嗜んでいた。 ↩︎
『ヨハネによる黙示録』にて語られる巻物のこと。「天にも地にも地の下にも、この巻物を開くことのできる者、見ることのできる者は、だれもいなかった。」(黙5:3、新共同訳) ↩︎
建物入口の扉を開閉する際に門番が引く紐を、勲章を下げるための綬と掛けた駄洒落である。 ↩︎
コルネイユ『ル・シッド』第2幕第2場「高貴な魂において、真価の現れは年月の数を待ちはしない」。言うまでもなくフランス語で書かれた詩句である。 ↩︎
「カレー市民」のひとり。百年戦争にてカレーが包囲された際、飢餓に苦しむ市民を救うため、殺されることを覚悟のうえで、自らエドワード3世のもとへ出向き許しを請うた。 ↩︎
ムスリム統治下のスペインにおけるキリスト教徒。 ↩︎